Taste of Japan

冬に旬を迎える栄養満点のぶりを使った温活レシピで、寒さに打ち勝つ身体へ

四方を海に囲まれた日本では、季節や地域ごとに極上の海の幸に出合うことができる。冬に旬を迎える魚といえば、濃厚な味わいが魅力のぶりがその代表格だろう。日本固有種であるぶりは、成長とともに姿と味わいが変化し、それとともに呼称も変わる「出世魚」として日本人にとってなじみ深い存在だ。最終形態の成魚であるぶりは、とりわけ縁起がいいとされ、門出や祝いの席で食されることも多い。特に冬の荒海で獲れる「寒ぶり」は、一段と脂がのって身が引き締まっており、格別なおいしさを誇るゆえ、特別な存在だ。

脂肪が多く、まろやかな旨味が特徴のぶりは、捨てる部位がないといわれるほど、あらゆる部位が生かされ、刺身や照り焼き、煮物、ぶりしゃぶなど、さまざまな料理が考案されてきた。タンパク質に加え、脳神経を活性化し、記憶力の向上などの効果があるDHAや、 血小板凝集抑制効果が非常に高く、心筋梗塞や、虚血性心疾患の予防効果がある EPA等のオメガ3脂肪酸、ビタミンB群、ビタミンD、鉄分なども豊富で、栄養価が高く、昔から滋養強壮によい食材とされてきた。料理家で、国際中医薬膳師のちづかみゆきさんによると、「五性でいう『温』にあたるぶりは、穏やかに身体を温める性質がある」といい、中医学の観点からみても冬に積極的に食べておきたい食材といえそうだ。

「『気』(エネルギー)と『血』(栄養を運ぶ)を補ってくれるぶりですが、潤いを補う働きもするため、乾燥する季節や風邪気味のとき特に意識して食べるといいでしょう。五臓のうち『肝』『脾』『腎』に働きかけるので、ストレスで傷めやすい肝を労り、胃腸の働きをよくし、アンチエイジングにも期待ができます。」

さまざまな調理法があるぶりだが、その効能を引き出すレシピも多彩だ。 「新鮮なぶりなら、そのままの風味を楽しめるカルパッチョがおすすめです。肺の機能を整え、のどを潤すブラックオリーブを刻んで散らし、その塩気とともに味わうと美味です」。 また、ぶりのように気血を補う食材には、巡りをよくする食材を一緒に合わせるとよいということも覚えておきたい。定番の煮つけ料理なら、気を巡らせるきんかん、そして血行をよくする黒酢を使ったレシピで、身体を温める相乗効果を狙いたい。

「熱湯をかけて霜降りにしたぶりを、黒酢、醤油、黒砂糖、酒、水(各大さじ2)、千切りにした生姜1片とともにフライパンに入れ、蓋をして中火で3分ほど煮ます。横半分に切ったきんかんを加えて、さらに5分ほど煮たら盛り付けをして完成です。寒さに打ち勝つ身体に整えてくれますよ」 また、アンチエイジングに着目するなら、「ぶりの照り焼きに、血を巡らせ、『腎』の働きをよくするにらを細かく刻んで散らしてどうぞ。肩こりの人にもおすすめです」

「ぶりと金柑の黒酢煮」 写真提供:ちづかみゆき

もともと回遊魚のぶりは、年間を通して安定して捕れるものではなかったが、現在では養殖技術が発達したおかげで、新鮮で良質なぶりを世界中のいたるところで手軽に入手できるようになっている。また、養殖のぶりが天然物に劣らないおいしさを誇るのは、その餌やりに特徴がある。酸化によって血合い筋が褐色に変化するのを防ぐため、ビタミン類を豊富に含む柑橘類を餌にする養殖方法が広まったのだが、身に爽やかな柑橘香がしたり、魚臭さが少ないといった独自の特徴が表れた“フルーツ魚”が日本各地で続々と登場した。抗酸化作用と旨味成分が向上した「かぼすブリ」(大分県)や、脂質を抑えつつ甘味成分が向上した「オリーブぶり」(香川県)など、個性あふれるさまざまなぶりを楽しめるようになったのは、ひとえに日本の地域性を生かした独自の養殖技術があってこそだろう。

生産が安定したことで、持続可能な資源となったぶりは、今後、日本だけでなく、世界中で親しまれる食材になるはずだ。加熱するのはもちろん、生で食してもおいしい日本のぶりを、さまざまな調理法を駆使して、その滋味深い味わいを堪能してほしい。


【語る人】
ちづかみゆき 料理家・国際中医薬膳師
上海、ボストンで活動後、東京に拠点を移す。旬食材の効能を活かした心と身体に寄り添うレシピを提案。料理教室meixue(メイシュエ)主宰。雑誌、企業へのレシピ提供、コラム執筆などを行う。近著に「暮らしの図鑑 薬膳」「巣ごもりごはん便利帳」など。
http://meixue.jp
Instagram: @miyukichizuka

【ぶりを使ったおすすめレシピ】

魚介の旨味がつまった、シンプルな滋養強壮レシピ
「ぶりのサルサヴェルデ」

日本の身が柔らかいぶりは、洋食とも好相性。塩胡椒を振り、強力粉をまぶしたぶりを、アサリ、刻んで炒めた玉ねぎ、ニンニク、イタリアンパセリと一緒に白ワインで煮込むだけ。香り豊かなソースに食欲倍増!

日本人の心の味。大根と煮込んだ、ぶり料理の王道
「ぶり大根」

鍋に、水、昆布、醤油、砂糖、みりん、乱切りにした大根、薄切り生姜を入れて中火で煮たら、霜降り処理をしたぶりを加え、水気がなくなるまで煮込む。器に盛りつけたら柚子の皮を散らして、爽やかな香りをプラス。

甘味と酸味で人気の広東料理を、ぶりでアレンジ
「ぶりの酢豚風」

生姜汁と醤油、酒に漬けこんだ肉厚のぶりを、片栗粉でまぶし、植物油で揚げておく。パプリカ、椎茸などの野菜とパイナップルを炒めたら、チキンスープと醤油、酢、ケチャップを混ぜて煮込み、ぶりを加える。溶いた片栗粉でとろみをつけ、ジューシーな旨味を閉じ込めて。

甘辛い味で万人に愛される、和食のスタンダード
「ぶりの照り焼き」

ぶりを甘辛く煮込んだ照り焼きは、ごはんとの相性が抜群。塩を振って余分な水分をふき取ったぶりを小麦粉にまぶし、焼き色がつくまで焼いたら、酒、醤油、みりん、砂糖、生姜汁をからめ、軽く煮詰める。身がパサつかないように、短時間で仕上げるのがコツ。

フライパンで簡単揚げ焼き! 作り置きしたいお惣菜
「ぶりの南蛮漬け」

斜め切りにした青ネギ、短冊切りにした生姜、人参、玉ねぎを植物油で炒め、麵つゆ、水、酢を混ぜたたれに漬け込んでおく。小麦粉をまぶしたぶりを、焼き色がつくまで焼き、たれと混ぜ合わせたら完成。ごはんともお酒ともよく合う食欲をそそる一品だ。

参考:農林水産省大臣官房広報評価課広報室編集・発行『aff』 2019年1月号 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/index_1901.html
水産物・水産加工品輸出拡大協議会
写真提供:photolibrary
文:有元えり

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