Taste of Japan

甘味も食感も多種多様! 宮崎から世界に発信するさつまいもの魅力

さつまいもの栽培に適した、水はけのよい火山灰の土壌が豊富な南九州。宮崎県最南端の串間市も、古くからさつまいもの産地として知られる場所だ。この地で生まれ、農業法人では年間出荷量、輸出量ともに国内トップクラスを誇るのが「くしまアオイファーム」。創業当初から輸出に力を入れており、「世界中に日本のさつまいものおいしさを届けたい」と語る社長の奈良迫洋介さんに、取り組みの数々を語ってもらった。

くしまアオイファームの自社農場の面積は45ヘクタール。丘陵地の多い串間市では、大規模な栽培地の確保が難しいが、多数の農家と契約して取扱量を増やしている。

さつまいもの日本語の名称は「SATSUMA(鹿児島県の旧称)IMO」。16世紀初頭に、中国から沖縄経由で鹿児島に伝わったのが、日本での歴史の始まりといわれている。中でも、鹿児島や宮崎などの南九州は日本有数の産地。この地域は、古代の火山噴火で降り積もった灰や小石が土壌を形成しているため、水はけのよい土地を好むさつまいもの栽培にぴったりなのだという。

「さらに私たちは、表面の黒土と地中の赤土を入れ替える“天地返し”を行っています。“赤ほや”と呼ばれる赤土は、天敵の害虫が少なく、より生育がよくなるからです」 こう語るのは、宮崎県串間市生まれの農業ベンチャー、くしまアオイファーム社長の奈良迫洋介さん。同社は、もともとさつまいも農家だった現会長が、新たな挑戦をするべく2013年に創業した農業法人だ。「世界中においしいさつまいもを届けたい」という壮大な思いに呼応し、若く意欲にあふれた人材が集まった。奈良迫さんもそのひとりだ。

以前は貿易商社でさつまいもの輸出に携わっていた奈良迫さん。彼をはじめ地元外出身のメンバーが多い同社の平均年齢は33歳と、農業生産法人としては異例の若さだ。

「現地調査をすると、東南アジアではさつまいもを炊飯器で蒸す人が多く、小ぶりのサイズが好まれることが分かりました。また、国内でも催事などでお客様の声を聞くと、大きいものは食べきれないという方が思いのほか多かった。これまで産地では小さなものは売れず廃棄されることが多かったので、チャンスだと思いました」

輸出を見据えた小ぶりなさつまいもを栽培するため、同社が独自に開発したのが「小畔密植栽培」という方法。苗を植える畦の間隔や苗と苗の間隔を通常より狭め、密集して育てることで、小サイズの芋がたくさん穫れるようになった。

小畔密植栽培で、みっしり生い茂ったさつまいもの葉。販路が拡大するにつれ、さまざまなサイズが販売できるようになったため、現在はこの栽培方法は行われていない。

さらに、自社だけでなく、賛同してくれる契約農家を増やすことで安定した生産体制を構築。現在は約230軒の農家と契約し、年間8,200トンの取扱量のうち2割を輸出している。農業法人としては国内トップクラスの規模だ。生産だけでなく、加工や販売まで通して手がけているのも同社の大きな強みとなっている。

その一環が貯蔵へのこだわり。一般的に、さつまいもは4〜5月に植え付けを行い、9〜11月に収穫するが、その後に貯蔵することで熟成が進み、さつまいもに含まれるでんぷんが糖化して甘くなる。くしまアオイファームでは2016年、全国でも有数の規模を誇る「キュアリング貯蔵庫」を導入した。 「キュアリングとは、さつまいもがもつ自然治癒力を活性化させること。高温多湿の環境に一定時間置くことで、収穫時についた傷をふさぐコルク層が形成され、長期間の保存が可能になります」と奈良迫さん。

温度35℃、湿度100%の状況に約100時間おくことで、人間でいう“かさぶた”のようなコルク層がさつまいもの表面に形成される。キュアリング貯蔵庫の容量は250トン。

その後、温度13〜15℃、湿度100%の定温貯蔵庫に移し、少なくとも2カ月間熟成させてから順次出荷する。出荷場では洗浄、乾燥、梱包などがワンストップで行うことができ、1日20トンの出荷が可能だという。

洗浄場ではまず、土が付いたままのさつまいもを水の入ったタンクに入れて大まかな泥を落とし、スタッフがいもの状態をひとつひとつチェックしてから、ベルトコンベアに乗せて洗浄機へ送る。

多くの品種を取り扱っているのも同社の特徴だ。宮崎生まれの「宮崎紅」をはじめ、スーパーなどのバイヤーの要望に応え、徐々に品種を増やしていった。独自のネーミングで差別化を図るといったブランディングも実施している。

「現在の主力は5品種です。紅ほっくり(宮崎紅)は、皮が紫色で中身が黄色。ホクホクした食感で、焼きいもだけでなく天ぷらなどの料理にも向いています。近年大人気の葵はるか(紅はるか)は、皮が紫色で中身が黄色なのは同じですが、食感がネットリして強い甘味が特徴。何といっても焼きいもがおすすめです。焼きいも人気の立役者としては、安納とろとろ(安納芋)もはずせません。皮は薄いオレンジ色、中身はオレンジ色で、甘味が強くネットリ系です。くちどけいも(シルクスイート)は、皮は紫色、中身は黄色で、焼きいもにするとスプーンですくえるくらいしっとりした滑らかさが特徴。万人受けする、ほどよい甘味です。皮も中身も紫色で、すっきりした甘味をもつのがイロドリムラサキ(パープルスイートロード)。アントシアニンが豊富で、美容方面でも注目されています」

籠に盛られた主力5品種。奥から時計回りに、イロドリムラサキ、安納とろとろ、紅ほっくり、くちどけいも、葵はるか。それぞれ異なる食感や味わいを食べ比べてみたい。

最近では、ひなたスイート(紅まさり)という品種も積極的に栽培している。数年前から特効薬のないさつまいもの病気が流行したため、その対策として試行錯誤した中で、この品種が病気に強いことが分かったのだという。しっとりした食感と上品な甘さが特徴だ。

「病気への耐性は永遠ではないので、宮崎大学と共同で、さらに病気に強い品種の開発に取り組んでいるところです」

くちどけいもの親にあたる品種のひなたスイート。「食感も甘さもくちどけいもと似ていますが、焼きいもにして割った断面のべっこう色がとりわけ美しいです」と奈良迫さん。

創業当初から海外展開を意欲的に行い、日本のさつまいものおいしさを広く伝えてきた同社。現在は中華圏や東南アジアが主な輸出先だが、それぞれの国で嗜好が異なるそう。

「台湾は自国のさつまいもが丸い形でネットリした食感なので、細長くホクホクした紅ほっくりが人気です。もともとアジア圏では、さつまいもは蒸して食べることが多かったのですが、最近は焼きいもがブーム。香港やシンガポールではどの品種も好まれ、タイやマレーシアでは大きいサイズの葵はるかが人気です。どの国でも共通している声は、日本のさつまいもは圧倒的に甘くておいしいということです」

世界中のさつまいもを食べてきたという奈良迫さんも、海外のものは甘さが弱いと感じ、日本産が好評なのも納得だと語る。先人たちが長い年月をかけて行ってきた品種開発や、くしまアオイファームをはじめ日本の生産者が研鑽してきた熟成技術の賜物だろう。

香港のスーパーに並ぶ、小ぶりサイズをパックにした葵はるか(紅はるか)。パッケージに描かれた女の子の顔は同社のキャラクター「あおいちゃん」で、海外でも認知されているそう。

シンプルに蒸したり焼いたりする以外にも、アジア圏では日本食が浸透しているため、味噌汁の具にする食べ方もおすすめだという。作り方は、さつまいもを皮付きのまま半月切りにしてから、10分ほど水にさらしてアクを抜き、だし汁に投入してすっと竹串が通るまで煮る。最後に味噌を溶きながら加えて味を整えれば出来上がりだ。

奈良迫さんおすすめのさつまいもの味噌汁。さつまいものほかに、薄切りの玉ねぎや一口大にカットした白菜またはキャベツを一緒に入れると、さつまいもの自然な甘味が生きた味噌汁になる。

水溶き小麦粉に絡めて揚げる、昔ながらの天ぷらも王道の食べ方だが、日本ではこのところ冷凍焼き芋の人気も高い。くしまアオイファームでも商品化しており、夏季も反響が大きいという。

「解凍した冷たい焼き芋は、食感がしっとりしてデザートとしての満足度が高い。切り込みを入れてアイスクリームを挟めば、さらに贅沢感が味わえます」

生いもはもちろん、これからはこうした加工品の輸出にも力を入れて、さつまいものいろいろなおいしさを味わってほしいと奈良迫さんは語る。

北米に輸出している「デザぽて」。フライドポテト状にカットして素揚げにしたさつまいもの冷凍商品だ。解凍してそのまま食べてもレンジで温めてもおいしく食べられる。

くしまアオイファームでは、食品ロスの削減にも積極的に取り組んでいる。船便による輸出では包装資材に結露が出やすく、カビや腐敗の原因になるため、資材メーカーと共同で独自の結露防止フィルムを開発。廃棄率が格段に低下した。また、大きすぎる規格外品はスイーツなどに加工しているほか、将来的には栄養価の高いつるを使ったサプリメント開発や、傷ついたいもなどを使ったバイオマス発電にも取り組みたいという。

苗植えの様子。病害などを防ぐためのマルチシートを従来は廃棄していたが、土壌で分解される生分解性マルチシートに切り替えを進めており、SDGsへの貢献を目指す。

「今後は、海外へ出荷するだけでなく現地生産も視野に入れて、もっともっと多くの人においしい日本のさつまいもを食べてほしい」と語る奈良迫さん。頬張ると口いっぱいに広がる甘味は、世界じゅうの人を笑顔にしてくれることだろう。

◎さつまいもを使ったレシピはこちら。
豚汁
サツマイモと白玉のスープ

参考:日本青果物輸出促進協議会
写真提供:くしまアオイファーム
文・高瀬由紀子

宮崎県串間市
くしまアオイファーム

さつまいも農家の4代目だった池田誠さんが、2013年に「強い農業」を目指して創業。現在はパートを含め111名のスタッフを抱え、230軒の農家と契約するまでに成長し、22年度決算期の売上は19億2300万円、取扱量8200トンと、農業法人としては国内トップクラス。創業当初から香港、台湾、シンガポールをはじめアジアに積極的に輸出しており、今後は中東、欧州、北米へも販路拡大を目指す。

https://aoifarm-gr.com/

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