

日本の美意識が育んだ多彩な器で、和の食卓をおいしく演出
約1万年前の縄文時代の土器に始まり、茶懐石などさまざまな文化の変遷とともに発展してきた和食器。日常の食卓に取り入れやすい器と、和食の盛り付け方について紹介する。

和食の基本となる「一汁三菜」は、タンパク質、ミネラル、ビタミンなど栄養バランスを考えた献立。手前に箸、手前左手に飯茶碗、手前右手に汁椀、右上に主菜、左上に副菜、中央に副々菜を配置する。汁椀、飯茶碗、副々菜など手のひらに乗るサイズの器は手に取り、主菜、副菜、長角皿のように持ち上げにくい器は持ち上げずにいただく。
和食器の歴史はおよそ1万年前、縄文時代の装飾的な土器に始まり、長い歴史を経て現在の形へと発展を遂げた。現代ではライフスタイルの変化に伴い、洋食器を取り入れながら多種多様な食の楽しみ方が広がっている。しかし時代の変化の中で、日本人が大切に守り続けていることがある。それは「目で食事を楽しむ」「箸を使い、器を手に持って食事をする」「季節に合わせた器を楽しむ」という文化だ。そのため日本の器は手触りや風合い、口当たりを重視してつくられている。和食の基本となる料理のスタイルに、「一汁三菜」という言葉がある。ご飯と汁もの、主菜に副菜、副々菜を添えた献立だ。和食器の種類は、この5つの献立に合わせたアイテムが基本となる。
まずご飯を盛る「飯碗」は、毎日使うものであることから、家庭では自分専用のものを揃えることが多い。手に持ったときの質感や大きさなど、各人が好みのものを選ぶ。次に味噌汁をよそう「汁椀」は断熱性のある漆器が一般的。直に口につけるものなので、口当たりがポイントになる。肉や魚などのメインディッシュには15cmから21cm程度の「中皿」を使い、料理によって丸皿や角皿を使い分ける。煮物などの副菜には「小鉢」や「中鉢」を、お浸し、和え物などの副々菜には「小鉢」や「小皿」を選び、バランスよく配置する。折敷やランチョンマットの中に丸と四角の器を混在させたり、色の取り合わせを考慮したりすることで、見た目にも美しく豊かな食空間が出来上がる。

米に旬の食材を入れて調理する炊き込みご飯。飯碗は毎日使うものなので、使いやすさと好みを重視して選ぶ。

さといもやごぼう、にんじんなどの根菜と豚肉を入れた豚汁は栄養価の高い一品。素地が木製の漆器は、熱が伝わりにくく汁ものに適している。
一汁三菜の基本的なアイテムを揃えたら、素材や柄、小物などでバリエーションを楽しみたい。一人の食卓でも「箸置き」を使えば食事の時間にゆとりが生まれ、テイクアウトのお惣菜もお気に入りの器に盛れば、よりおいしく感じられるだろう。直径12cm以下の小皿や豆皿は、副々菜以外にも醤油や薬味皿、取り分け用の皿にと幅広く使えるので、デザインの異なるものを少しずつ揃えるのも楽しい。
日本では家族の食卓や客をもてなす際に、大皿の料理で取り分ける習慣がある。直径30cm前後の「大皿」に、煮物や天ぷら、刺身やサラダなどを見栄えよく盛って、銘々が取り分けるスタイルだ。大皿に盛り付ける際は、中央に山のようにこんもりと置き、皿の周囲に余白を残すと、料理が映える。旬の食材を見栄えよく盛り付ければ、食卓での会話も弾むだろう。

皮目をカリッと焼いた鶏の照り焼きは、酒、みりん、醤油のタレを煮詰めて照りを出す。皿の余白を残し、野菜で彩りを加える。

刺身用のホタテに、だし醤油でのばした梅肉、しそを添えた副菜。深さのある小中鉢の中央に円錐形に盛るのがコツ。
南北に長く、海に囲まれた日本では、各地の特産品や旬の味覚をいち早く楽しむ食文化が根付いている。旬の時期に収穫される魚や野菜を、素材の持ち味を生かして食するのが和食の醍醐味だ。秋から冬にかけて旬を迎える根菜類はさまざまな料理に利用される。ごぼうやだいこん、にんじん、ねぎなどたっぷりの根菜と豚肉を入れて味噌で調味する豚汁は、冬の家庭料理の定番。いもご飯や、煮物、焼き芋、和菓子など幅広く使われるさつまいもも、冬に欠かせない食材だ。
鶏肉は日本各地に「地鶏」の産地があり、さまざまな料理に活用されているが、家庭料理の定番として挙げられるのが照り焼きだ。鶏のもも肉に片栗粉をまぶしてフライパンでじっくり焼き、酒、醤油、みりんで甘辛く味付けした一品は、ご飯との相性もよく子どもから大人まで親しまれている。
副菜と副々菜には旬の野菜を中心に、栄養バランスを考えて組み合わせる。茹でたほうれん草を水にさらして絞り、食べやすく切って鰹節を添えたお浸し、塩揉みしたきゅうりとタコを酢、砂糖で和えた酢の物は、味や食感の変化を添える副菜の定番だ。

揃いの絵皿。大皿、大鉢、取り分け用の小皿を一式揃えておくと、客人のおもてなしに重宝する。
和食器の素材はさまざまあるが、陶器と磁器の総称である「陶磁器」が一般的に親しまれている。その昔、中国や朝鮮から伝来した釉薬や焼き方の技法は日本で独自に発展を遂げ、現在では全国に陶磁器の産地が存在する。原料となる土や陶石、釉薬の有無、焼く温度の違いによって「陶器」「磁器」「土器」「炻器(焼き締め)」などに分類される。煮物や揚げ物、火に鍋を直接かけながら食する鍋料理などには、保温性が高く重量感のあるものを、お造りや冷菜などには透光性のある薄手のもの、と料理や季節によっても使い分ける。
透明感のあるガラスの器は涼を演出する夏の器としてはもちろんのこと、一年を通して活躍する。飲み物用のグラスや酒器のほか、料理を盛り付ける皿や鉢などさまざまな種類が揃う。食後のデザートや果物をガラスの器で供すれば、テーブルの雰囲気をガラリと変えることもできるだろう。
和食器を選ぶ際は、料理との組み合わせを考えて、無地のものを基本に徐々に色や柄物を取り入れてみたい。白地に赤、緑、藍、黄などで文様や絵を描いた色絵、各地の土の特性を生かして焼き上げる個性的な質感の器など、バリエーション豊かな和食器は、目にも楽しく食卓をいっそう華やかにしてくれる。

深さのある中鉢は、汁気のある料理を入れるのに適している。器の中央に小高く盛れば、ふだんの惣菜も豪華に見える。

使い勝手のよい中皿は、一人前の主菜を盛るのに適している。菊の花を思わせるシンプルなデザインが美しい。

深みのある小鉢は多様な使い方ができる。小高く盛り付けやすいので、料理が映える。

食卓に彩りを添える赤絵の小皿。漬物とのコントラストが鮮やか。

紫陽花が描かれた染付の中皿。季節感のあるこの器は5月末から6月上旬の期間限定。

瓢箪や扇面、六角をかたどった縁起のよい豆皿。豆皿は小皿よりも小さいサイズのものを指し、塩や薬味などを入れる。

さまざまな技法を駆使したガラスの器に季節の果物を盛れば、見目美しいデザートに。

直径約12cmの小皿は副々菜のほか、醤油や薬味を入れたり、和菓子を載せたりと、幅広く使える。絵柄もさまざまなものがあるので、少しずつ収集する楽しみがある。
個性豊かな和食器は、料理を美しく引き立てるのはもちろん、器の素材や柄を愛でる楽しみもある。そのために盛り付け方に工夫をするとより一層、食欲がそそられる。さらに食材の色と器の組み合わせなども考えながら、自分なりに工夫することで、毎日の食卓はより豊かなものになるだろう。
実際に日本食を作って、そのおいしさと盛り付けを楽しんでみよう!
「肉じゃが」
野菜と肉をバランスよくいただける、日本の家庭料理の定番
https://tasteofjapan.maff.go.jp/jp/recipes/detail/269.html
「ほうれん草のお浸し」
シンプルな調理で、ほうれん草のおいしさを引き立てる
https://tasteofjapan.maff.go.jp/jp/recipes/detail/53.html
「豚汁」
具だくさんで栄養満点! 生姜や味噌を使った身体が温まる一品
https://tasteofjapan.maff.go.jp/jp/recipes/detail/634.html
「ぶりの照り焼き」
みんなに愛される、甘辛い味はさまざまな食材に応用可能
https://tasteofjapan.maff.go.jp/jp/recipes/detail/29.html
【プロフィール】
浜 裕子(器選定・監修)
食空間プロデューサー。フラワー・インテリア・テーブルコーディネートをはじめ、旅館、料亭で器のコンサルティングやパーティ、イベントなどの企画・演出を手がける。近年は和の歳時記や日本の生活文化を研究し、和と洋の融合、精神性の高いデザインをテーマにしたライフスタイル提案に取り組む。NPO法人食空間コーディネート協会副理事長・認定講師。著書多数。
https://hanakukan.jp
Instagram: @yukohama.hanakukan
楓 英恵(料理)
フランスで星付きレストランの厨房にて経験を積み、帰国後は辻調理技術研究所 日本料理専門課程にて日本料理を本格的に学ぶ。その後、調理師学校講師、商品開発等に携わり、門前仲町に料理教室「atelier kafuné」をオープン。外国人に日本料理を教える教室なども開催している。フランスにて和食料理のレシピ本を出版。のちに英語版も出版された。
https://www.kafune-tokyo.com
Instagram: @atelier_kafune
参考:一般社団法人 和食文化国民会議
文・久保寺潤子 写真・河内 彩