Taste of Japan

ロンドンで味わえる、とびきりの「WAGYU SANDO」が話題

ロンドンでは日本食のレストランはもはや定番の人気だが、本格的な日本料理を堪能できる高級店から、気軽に楽しめる麺類などの店まで幅広く存在し、その種類は年々多様化している。それに伴い、SUSHIだけでなく、KATSU、UDON、EDAMAMEなど、日本語がそのまま使われ、イギリスの生活でもおなじみとなった食品や食材も多い。WAGYUもそのひとつだ。

厳選した旬の食材だけを使った、シェフのおまかせコースを提供するレストラン「MARU」と、バラエティに富んだメニューで客の好みによって多様な日本食を楽しむことができる「TAKA」。この2店を手がけるのがシェフの丸山泰治さんだ。丸山さんは日本で経験を積んだのち、2006年に渡英。高級日本料理を世界に広めた立役者的なレストラン「NOBU」やその他の店を経て、2020年9月に「TAKA」のエグゼクティブシェフに就任。今春には自身の名を冠した「MARU」もオープンした。
「日本料理を作るなら、日本産食材だけを使って料理するのが一番なのは間違いありません。でもロンドンではすべてを日本産でまかなうのは難しい。せっかくなら、日本産の食材とイギリス産のものを組み合わせて、日本では食べることのできない日本料理を作りたいと考えました」

シェフの丸山泰治さん。レストラン「TAKA」と「MARU」のエグゼクティブシェフを務める。

日本産であることを譲れない食材は、白米、味噌、醤油、酒、海苔。そして和牛だ。
和牛は丸山さんが渡英した15年前にはすでに話題になっていたというが、当時のロンドンで手に入るのはオーストラリアなどで育てられた和牛種の肉のみだった。7、8年前にようやく日本産の和牛が解禁となったことで、一気に人気が高まったという。ロンドンの高級エリアのひとつであるメリルボーンに構えるレストラン「TAKA」では、たとえ高価でも最高級の和牛を食べたいという要望が多く、そんな顧客の声に応えるために、丸山さんは良質な日本産和牛を選ぶところからこだわり、和牛を使ったいくつかの料理をメニューに並べている。

お店で使っている日本産食材の一部。特に調味料や米は日本産と決めている。

なかでも、店の看板であるとっておきの和牛のサンドイッチ、その名も「ARIGATO SANDO」は、一度は食べてみたいという逸品として大きな話題になっている。
使っているのは鹿児島県産の桜和牛。和牛専門のサプライヤーを通して入手している。その品質を表すグレードのなかでもA5が最高級であることは、イギリスのグルメの間でも有名で、「TAKA」のメニューの和牛サンドの箇所には「KAGOSHIMA A5 SAKURA WAGYU」の文字がある。

「実は以前は和牛のステーキを出していたこともありました。でも少し前に日本でブームになっていた和牛サンドにヒントを得て、当時はまだロンドンでは誰もメニューに出していなかったこともあり挑戦してみたのです」
ステーキとして提供するほうがキッチンでの手間や効率を考えるとずっとシンプルで簡単だ。でもそれでは丸山さんが考える、日本では食べることのできない日本料理にはならない。「ARIGATO SANDO」は、丁寧に焼き上げた一番良い部位の和牛を、味噌のソースとイングリッシュマスタードを塗ったイギリスの小麦粉使用の厚切り食パンに挟む。和牛の深い味わいを引き出した、独創的でとびきりの一品だ。日本とイギリスの食材の融合を実現している上、和牛の最良の食べ方は決してステーキだけではなく、他の調理法でも最高のパフォーマンスをみせてくれる食材であることも示している。

さらに「食材をできるだけ無駄にせずにすべて使い切るということも、とても大切だと意識しています」と丸山さんは語る。「ARIGATO SANDO」に使われる和牛は、サンドイッチ用パンのかたちに合わせて一番良い部分を端正に四角く切っている。「その際に出る切り落としの肉を10時間近くかけて、すべて柔らかく煮込んでみたんです。それをすき焼きに混ぜたら、ものすごく美味しくて」。そうして生まれた「WAGYU DRIPPINNG BOWL」は、煮込んでトロトロになった和牛を甘辛いタレに合わせてご飯にかけた一品だ。日本人ならばどこか懐かしい、すき焼きを乗せたご飯を思い出さずにはいられないが、ロンドンでも非常に好評だという。

和牛サンドで出た切り落としの肉をじっくり煮込んでご飯にかけた「WAGYU DRIPPING BOWL」。甘辛いソースと絡めて絶品。

「和牛はそれだけで高価に提供できる食材です。だから切り落としが出ても、それをわざわざ使って他の料理に仕上げるような手間のかかることは他店ではなかなかやらないと思います」。でもそれでは丸山さんのポリシーが許さない。そこには食材、さらにそれを作った生産者への深い愛情と敬意も感じられる。
「日本産食材の魅力は、何と言っても品質の良さにあります。その背後には、命をかけているといっても過言ではないほどに心を込めて生産する農家の人たちがいる。そんな生産者さんたちの想いを、料理を通してレストランにやってきた人たちに伝えるのが私たちシェフの役目だと考えています」。

丸山さんはいま新たに、これまで手がけてきたのとはまったく違う日本の味をロンドンに広めていくためのプロジェクトをスタートしたところだという。具体的な内容はまだ秘密だ。
「ロンドンの日本食人気はとどまるところを知りません。今後はさらに、例えば和牛店や酒屋など専門店が増えていくことになるのではないかと予想しています」。
海外で活躍する優れた料理人たちの挑戦によって生み出された日本の味が、これからも、ロンドンのみならず世界の人々を喜ばせていくと期待している。

メリルボーン地区にあるレストラン「TAKA」は上品なブルーの外観が目印になる。

文・坂本みゆき 写真・山内ミキ 

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