Taste of Japan

NYでは、日本古来の発酵食品が注目の的、 「発酵」が食のトレンドキーワードに

腸内環境を整える効果がある発酵飲料KOMBUCHA(コンブチャ)は、ここ数年で、アメリカ全土で急速に人気が高まり、さまざまなフレーバーを加えたボトル飲料として販売されている。自家製コンブチャの作り方を学ぶワークショップも話題となっているニューヨークでは、「発酵食品」そのものに目が向けられ、納豆や味噌、ぬか漬けなどの日本独特の発酵食品への注目度が急浮上。日本古来の発酵食品がもつ滋味と健康食品としての底力に着目し、積極的にメニューに取り入れるスターシェフも増えている。

ミシュランシェフとして世界で広く名が知られるデビッド・ブーレイ氏(https://davidbouley.com/)。“ブーレイ・マジック”といわれるクリエイティブな料理で数々のグルメたちを魅了してきた彼は、一流料理人として美食を極めると同時に、「食と健康の相互関係」を追求し、料理人という立場から、さまざまな活動を行ってきたパイオニアでもある。2016年より日本食普及の親善大使を務め、日本の料理人とも親交があり、幾度となく来日しているブーレイ氏は、日本産食材や調理法にも造詣が深く、積極的にメニューに取り入れていることでも知られている。今回は、ブーレイ氏が新たに計画している「食と健康の科学」に関するプロジェクトの母体となる、トライベッカの新しいキッチン・スタジオを訪れ、いまアメリカでもトレンドとなっている発酵食品についての話を聞いた。

シェフ専用の冷蔵庫から出てきたのは、大きなバターの塊やプラム漬けやピクルス、そして納豆や味噌などの発酵食品の数々。
「これは、フランスでつくられた発酵バター。アメリカのスーパーマーケットでは、なかなか見かけませんが、発酵により生まれた味の違いは言うまでもないはずです。自家製のぬか床には、定番のキュウリや人参などの野菜も含め、常識にとらわれずさまざまな食材を漬け込んで試しています。日本だけでなく欧米人も、かつては発酵食品をもっと日常的に摂っていましたが、便利なインスタント食材などの普及で、現在、発酵食品の摂取量はどんどん減っているのが現状です」。

ブーレイ氏は、以前から世界中の食材や調理法を探求し続け、やがて食と健康の関係に着目する。そして、12年前より、定期的にChef& The Doctorsというイベントを主催し、 専門医を招いて「医食同源」を追求するシンポジウムを開催し、各メディアでも大きく取り上げられ、ニューヨークの食通の間でも話題となっているのだ。
「私がこのシンポジウムを始めたきっかけは、クオリティの高い食は(決して高価な食材という意味ではありません)、人間の身体に起こるさまざまな問題を未然に防ぎ、癒すことができると考えたからです。料理人は、科学的な知識をもつドクターと消費者の間に立ち、身体に有益な素材を美味しく食生活に取り入れられるよう、ブリッジのような役割を果たせると思ったのです」

2019年に行われた発酵シンポジウムの様子。医師や料理家などさまざまな人が参加し話題となった。

シンポジウムでは日本の発酵食品にも強い関心が持たれ、納豆や味噌、ぬか漬けなどを普段の食生活に美味しく賢く取り入れる方法なども意欲的に紹介された。
「食材を発酵させることによって生まれるバクテリアが、腸内菌のバランスを良好に保ち、腸の働きを良くしてくれるだけでなく、病原体の侵入を防ぎ細胞を活性化させる働きもあります。バクテリアは熱や酸に弱く、腸までたどり着かないものも多いが、納豆菌は熱にも強く腸まで届きやすいという優れた特徴があります。多くの欧米人にとって、未知の食材である納豆。特に、糸を引く形状や匂いに抵抗がある人も多いので、私は、チャーハンにするなど、火を通して納豆を食べやすい調理方法で紹介しています」

ブーレイ氏と納豆ブランド「Nyrture New York Natto」を手がけるアン・ヨネタニさん。

また、ブーレイ氏と親交があり、彼の発酵シンポジウムにも登場したアン・ヨネタニさんは、コロンビア大学で微生物博士号を取得した科学者であり、同時に納豆プロデューサーという異色の肩書も持つ。2015年より、ブルックリンをベースにオリジナルの納豆づくりを始め、納豆ブランド「NYrture New York Natto」(www.nyrture.com)をスタートした。フィラデルフィア出身の日系アメリカ人であるアンさんは、幼い頃から当たり前のように納豆を食べていたという。そして日本で本格的な納豆づくりを学び、ニューヨークで手作りの納豆を販売し始めたところ、日系人だけでなく、納豆に馴染みのない人々からも好感触を得た。現在、アメリカ全土(50州すべて)で販売しており、顧客の90%は、日本人ではなく多様な文化的背景を持つ外国人。NYrtureのウェブサイトやインスタグラムでは、納豆の効能を伝えるのはもちろん、納豆を使ったさまざまなレシピ(ピザやパンケーキにも納豆を活用!)などを紹介していて話題だ。

黒豆を使った納豆や、ターメリック入り、オーガニック納豆などさまざまな種類がある。©nyrture

さまざまな納豆レシピが紹介されているNYrtureのインスタグラムより。©nyrture

発酵食品ブームとともに注目が高まっている日本の伝統的発酵食品。マンハッタン内のスーパーマーケットの健康食品コーナーでは、味噌や塩麴などを見かけることも多く、クッキング専門のウェブサイトなどでも日本の発酵食品を使ったレシピが紹介されている。そして、和食好きの外国人でもハードルが高いといわれていた納豆は、その優れた栄養価が一般に認識されるようになり、一躍人気スーパーフードの仲間入りをしている。

日本の食卓には、味噌汁や納豆、漬物などの発酵食品が日常的に並んでいる。しかし、日本人であっても、伝統的な発酵食品の優れた力を理解して食べているという人は、少数派かもしれない。ブーレイ氏の新しいスタジオはニューヨークのトライベッカにあり、“ Bouley at Home Living Pantry”では、プライベートダイニングや講義、ポッドキャストでの配信、本の出版などの新プロジェクトが企画され、今後も彼が探求する食の”Journey “から目が離せない。

文・高久純子 撮影・野口正博

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