Taste of Japan

豊かな四季が作り出す日本産食材に、たっぷりの愛情を込めて

東京・目黒区。大通りから一本入った路地裏の静かな住宅街に、コンパクトなオープンキッチンを取り囲む15席ほどの店は、心地よい喧騒と香ばしい香りに満ちている。この小さな人気店「ロカール」を切り盛りするのは、カリフォルニアから来たひとりの若い女性。店のエネルギーの源、とも呼べる太陽のような笑顔を持つ彼女の名はケイティ・コール。ロサンゼルス生まれ、サンフランシスコ育ちという彼女が、東京の路地裏にレストランを開業させた背景には、さまざまな運命の出会いがあった。

オープンキッチン向かいのカウンターも良いが、気持ちいい光が注ぐ大きな窓際も特等席。

ケイティが初めて日本を訪れたのは2015年のこと。10日間ほどの観光で、当時サンフランシスコのレストランで働いていた彼女は、自ら調べたおいしい店のリストを巡っていたという。そのひとつが、食材にこだわりがあり当時食通の間で話題となっていた「ビアード」という一軒。
「いつか自分で店を持つなら、こんな場所でこんな雰囲気の小さなレストランがいい、と直感的に思いました。日本産食材にこだわっていたところもすごく共感でき、シェフとはすぐに友人になりました。その半年後、そのシェフから移転のため目黒の店が空くことになったと連絡を受け、それならばと私が引き継ぐと即決したんです」。自分のレストランを、しかも異国の地に持つというワクワクと不安が入り混じる中で、常に彼女の心の核心にあったのは、日本産食材への情熱。サンフランシスコのレストランではあたり前となっていた、産地と食卓をつなぐ「ファーム・トゥ・テーブル」を日本のレストランで実践することだった。

野菜は、営業時間に合わせて農家から直送便が毎日届く。この日は東京の青梅からビーツやラディッシュが、広島からは皮までおいしいレモンが、さらに高知の農園からはケールやニンジン、ズッキーニ、フェンネル、ブロッコリーやインゲンなどがたっぷり詰まった段ボールが届いた。すべて、良い土壌にこだわり無農薬、露地栽培で育った新鮮な野菜たちばかり。ケイティは愛情を込めて、ひとつひとつをオープンキッチンに陳列していく。

食材を大事に愛情込めて扱うケイティの手元は、ずっと見ていても飽きない。

「たくさんの人とのつながりを経て、ロカールで使う材料は、複数の生産者から直接届く食材だけに絞りました。しかも、その季節に収穫される野菜、肉、魚を、生産者におまかせで選んでもらうことにしたんです。決断の背景には、日本に暮らして感じた、四季の豊かさが上げられます。美しい四季の変化があり、それに合わせるように農産物にもはっきりとした四季があることを知りました。そうして食でも旬を楽しむ文化こそ、日本らしさだと思ったんです。いつでも同じ野菜が手に入る西洋の文化とは明らかに違うし、日本の野菜には季節の旨味が凝縮しているように思います」

調理法はいたってシンプル。食材そのものの味を引き出すため、得意のソースや塩、オリーブオイルなどで手早く仕上げる。

「日本の野菜の種類の多さにも驚いています。たとえば“ナス”にしても、長ナス、大長ナス、水ナスに小ナスなど、楽しくなるくらいさまざまな品種がありますよね。そして、どの野菜も甘い! 日本では、食物がおいしくなるその瞬間に収穫するという農家が多いと聞きました。日本の野菜の甘さ、味の深みは、本当に素晴らしいものばかり」

目の前に座るお客さんと楽しく会話をしながら料理するのも、ケイティの楽しみ。

ケイティは、野菜だけでなく肉や魚についても、生産者をよく知ることを心がけている。先日は、東京で働くネパール人のシェフに、おいしいサクラエビを紹介してもらい、静岡の漁師さんに出会うことができたのだと喜ぶ。また、豚肉を提供してくれる鹿児島の畜産農家がドイツでシャルキュトリを学び部位を余すところ無く加工するという、サステイナブルな生産方法を取っていることに心から共感し、食を通じて広がっていく生産者との絆を、何よりも大切にしている。「柔らかな豚肉や旨味のある和牛などは、きめ細やかな視点を持つ日本の生産者や若手の人たちの育て方の賜物でもあると思うんです。また、常に豊富な海産物が水揚げされるのは、海に囲まれた日本ならではですね」

上から右まわりに、「Avocado, shibazuke(※) yogurt, french lentil」、「Creamy cashew, spring onion, Moroccan bean, broccoli」、「Fukudome pork, quinoa, baby carrot, kale, caramelized onion」。(※)しば漬けは、ナスやキュウリ、ミョウガなどを赤じそと塩で漬けた発酵食品。

箱を開けるまで何が入っているか分からない。ワクワクしながら出合う食材たちは、新しい料理の扉を開く挑戦状だ。毎日のメニューを即席で考えていくことが、いまでは彼女の日常になった。日本ならではの食材も彼女の手にかかれば、見たことのないひと皿に生まれ変わる。
「いつも食材のナイスマッチを探している!」という彼女の料理は、味の組み合わせと同時に、色の組み合わせも秀逸だ。レギュラーメニューを持たない中、ひとつだけ大切にしているのが、なんと「しば漬け」を使った色鮮やかな前菜。きれいな赤じその色がついた「しば漬け」の酸味と、日本の濃厚なヨーグルトの組み合わせは、野菜の甘味をさらに引き立ててくれる特別なソースになっている。「私の頭の中で、レンズ豆とヨーグルト、アボカドとしば漬け、というコンビネーションが衝撃的に合うことが分かったんです。しば漬けもヨーグルトも発酵食品ですが、上質な味わいがあり、それも日本人の丁寧なものづくりの現れだと思います」

彼女の人柄そのもののポジティブなエネルギーに満ちた空間。

食材だけではなく、天気や気温、さらには彼女自身から自然に湧き出てくる感情もひっくるめてその日の料理に投影されていく。少しでも一日を良いものに変えられるようにと思いを込めて調理されるクリエイティブなひと皿は、生産者たちが丹誠込めて作った安全な食材を、命としてつなぐ役割も果たしている。「ニンジンの穂先を捨ててしまうようなことをしたくない」という彼女のつぶやきに、料理への熱い想いが伺える。

文・須賀美季 写真・寺澤太郎

ケイティ・コール

サンフランシスコ出身、人気レストラン「State Bird Provision」での経験を持つ。日本を訪れた際に食材の美味しさと魅力に惹かれ、移住を決意。東京、目黒にレストラン「LOCALE」を2017年にオープン。日本各地の生産者から直接食材を仕入れ、その日届いた「おまかせ」食材をもとにメニューを決める。

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